人事の豆知識

試用期間内で従業員の適格性が判断できないとき

2012.01.06
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あなたの会社の試用期間はどのくらいですか?

一般的には3カ月としているところが多いようです。

試用期間の長さについては法律では決まっていないため、その会社に合った期間を定めていただいて問題ありません。

しかしながら、あまりに長い期間を定めてしまうと、社員にとっては不安定な状況が続いてしまうため、最長でも1年が限度であると考えられています。

それでは、3か月の試用期間と定めたことにしましょう。

入社してきた従業員は3カ月たっても仕事をまったく覚えてくれません。

遅刻することなどはなく、勤務態度もまじめであるため、解雇という判断は難しい状態です。

このような場合、試用期間を延長して様子を見ることは可能でしょうか?

答えは、就業規則に試用期間を延長する旨を記載しておけば延長可能になります。

また、今回の場合の試用期間を延長する理由は、「能力が足りないため」であるので、延長する際にはその理由をきちんと本人に必ず伝え、記録を残しておいてください。

そして、試用期間を3か月延長することにしました。

しかし、試用期間を延長した結果、やはり能力が足りず従業員として不適当であるという会社の判断が下り、本採用の拒否ということになりました。つまり、解雇です。

判例において、試用期間中の解雇は本採用後の解雇よりも広い範囲で解雇の自由が認められると述べられていますが、客観的合理的に見ても能力が足りなくて本採用後の仕事の見込みがないのかどうかで解雇が有効かどうかが判断されます。

そのため、解雇に至るまでのプロセスをきちんと整えておく必要があります。

〈試用期間の法的性格〉

多くの企業が、採用後に一定の試用期間を設定し(新規学卒者の場合は通常3~6カ月程度)、入社した従業員の適格性を観察・評価しています。試用期間は仮採用で、試用期間満了時に本採用とする、という扱いも多く見られます。

上記のような試用期間の制度のもとでは、試用期間中における仮採用の従業員と企業の関係は、「解約権留保付労働契約」であるというのが最高裁の立場です(最大判昭48.12.12 三菱樹脂事件 民集27巻11号1536頁 )。ですから、「本採用拒否」という文言を用いていたとしても、試用期間満了時に本採用しないということは、採用の問題ではなく、労働契約の解約の問題すなわち解雇の問題ということになります。解雇権濫用法理(労働契約法16条 )によって、客観的合理性と社会的相当性の2つがなければ法的に無効となります(たとえ解約権が留保されていても、その解約権を濫用することは同16条 によって否定されるということです)。判例は、採用するか否かを決定する際は、その従業員の資質、性格、能力といった適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行い適切な判定資料を十分に収集することができないので、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保するために試用期間を設けることは合理的であるとしています。そして、試用期間における留保解約権に基づく解雇は、(本採用後の)通常の解雇よりも広い範囲において解雇の自由が認められるとも述べています(前掲 三菱樹脂事件)。

ですから、実際に就労を開始した後、能力面など従業員としての適格性に欠けると企業が判断した場合、留保解約権の行使が解雇権の濫用(労契法16条 )とならなければ、留保解約権の行使(具体的には試用期間中の解雇あるいは試用期間満了時の本採用拒否)が法的に認められることになります。また、解雇権濫用か否かの判断においては、通常の解雇に比べると解雇に対する制限が弱い(客観的合理性、社会的相当性が通常の解雇の場合に比べて認められやすい)ということになるでしょう。ただし、たとえ保護の度合いが本採用後に比べて弱いとしても、留保解約権の行使が当然に認められるわけではない点に留意すべきでしょう(試用期間中の解雇について、適格性を有しないと認めることはできないとして解雇権濫用で無効であると判断した例に、東京高判平成21・9・15 ニュース証券事件 労判991号153頁があります)。

(参考資料:独立行政法人 労働政策研究・研修機構 労働問題Q&A 成蹊大学法学部准教授 原 昌登)